女性活躍の真髄:数字だけでない、多様なキャリアパスの実現 ~押し付けではない、自由な選択こそが鍵~

目次

近年、日本社会において「女性活躍」という言葉をよく耳にするようになりました。特に、2015年に制定された女性活躍推進法は、多くの企業に女性の登用を促す契機となりました。しかし、この法律の意図と現実の運用には、しばしばギャップが生じています。今回は、中小企業の経営者・人事担当者の皆様に向けて、女性活躍推進法の本質と、その実践における注意点について詳しく解説していきます。

1.女性活躍推進法の歴史と背景

女性活躍推進法(正式名称:女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)は、2015年8月28日に公布され、2016年4月1日に全面施行されました。この法律が制定された背景には、日本社会が直面する以下のような課題がありました。

1.少子高齢化による労働力人口の減少
2.国際的に見て低い女性の労働参加率
3.管理職に占める女性の割合の低さ

厚生労働省の「令和3年版働く女性の実情」によると、2020年の女性の労働力率は72.6%で、前年に比べ0.6ポイント上昇しています。しかし、管理職に占める女性の割合は依然として低く、同報告書では課長相当職以上に占める女性の割合は12.1%にとどまっています。


なお、女性活躍推進法が必要とされた主な理由は以下の通りです。

1.経済成長の推進:女性の労働参加を促進することで、労働力不足を解消し、経済成長を後押しする。
2.多様性の確保:多様な視点や経験を持つ人材を登用することで、イノベーションを促進し、企業の競争力を高める。
3.国際的な要請:男女平等や女性の社会進出において、日本は国際的に遅れをとっていたため、その改善が求められていた。
4.社会的公平性の実現: 能力があるにもかかわらず、性別を理由に昇進の機会を逃している女性たちに公平な機会を提供する。

2.現在の政府の方針

2023年6月に閣議決定された「女性活躍・男女共同参画の重点方針2023」に基づき、政府は女性活躍推進に向けて新たな方針を打ち出しています。この方針は、「男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の実施の状況及び今後の取組」(令和5年版男女共同参画白書)にも反映されています。

①基本的な考え方
政府は、以下の基本的な考え方に基づいて女性活躍を推進しています:

・男女共同参画社会の実現は、「社会の持続可能性」と「Well-being」の向上につながる最重要課題である。
・女性の経済的自立を実現し、多様な選択を可能にする社会システムの構築が必要である。
・男女の役割分担意識の解消と、男性の家庭・地域社会への参画促進が重要である。


②重点的に取り組む分野
「重点方針2023」では、以下の5つの分野に重点的に取り組むことが示されています:

1.女性の経済的自立
・女性デジタル人材の育成
・女性の起業支援
・非正規雇用労働者の待遇改善

2.女性が尊厳と誇りを持って生きられる社会の実現
・性暴力・性犯罪対策の強化
・困難を抱える女性への支援

3.男性の家庭・地域社会における活躍
・男性の育児休業取得促進
・男性の家事・育児参画の促進

4.女性の健康の包括的支援
・生理の貧困対策
・不妊治療への支援
・女性特有の健康課題への対応

5.女性デジタル人材の育成
・デジタルスキル習得支援
・理工系分野への女性の参画促進


③具体的な数値目標
政府は「第5次男女共同参画基本計画」(2020年12月閣議決定)において、以下のような具体的な数値目標を設定しています:

・2025年度までに民間企業の課長相当職に占める女性の割合を18%に
・2025年度までに民間企業の部長相当職に占める女性の割合を12%に

さらに、2022年4月4日に施行された改正コーポレートガバナンス・コードにおいて、東京証券取引所プライム市場上場企業に対しては、以下の目標が設定されています。

・2030年までに監査役を含む役員に占める女性の割合を30%以上に

この目標は、東証プライム市場上場企業に特化したものであり、他の企業に直接適用されるものではありません。しかし、この目標設定は日本企業全体の女性活躍推進の動きを加速させる重要な指標となっています。


④女性活躍推進法の強化
2022年4月1日からは、女性活躍推進法の対象が拡大され、常時雇用する労働者が101人以上の事業主にも行動計画の策定・届出、情報公表などが義務付けられるようになりました。これにより、中小企業においても女性活躍推進への取り組みが求められています。


⑤両立支援策の充実
政府は、仕事と家庭の両立支援策も強化しています:

1.育児・介護休業法の改正による男性の育児休業取得促進
2.保育の受け皿拡大と保育の質の向上
3.企業主導型保育事業の拡充
4.テレワークなど柔軟な働き方の推進


⑥インセンティブの提供
女性活躍推進に積極的に取り組む企業を「えるぼし」「プラチナえるぼし」として認定し、公共調達における加点評価などのインセンティブを設けています。
これらの方針や施策を通じて、政府は女性が個性と能力を十分に発揮できる社会の実現を目指しています。しかし、次のセクションで議論するように、これらの施策を画一的に適用することには注意が必要です。

3.女性活躍推進の落とし穴:画一的な推進の危険性

多様な価値観の尊重

女性活躍推進法の意図は素晴らしいものですが、その実践において注意すべき点があります。それは、全ての女性が管理職を目指すべきだという誤った解釈です。

人それぞれに異なる価値観や人生の目標があります。ある人にとっては管理職になることが目標かもしれませんが、別の人にとっては専門性を極めることや、ワークライフバランスを重視することが重要かもしれません。

やみくもな管理職登用の弊害

女性だからという理由だけで、本人の意思や適性を無視して管理職に登用することは、以下のような問題を引き起こす可能性があります。

・モチベーションの低下:管理職という役割に適性がない、または興味がない場合、仕事へのモチベーションが低下する可能性がある。
・ストレスの増加:望まない責任を負うことで、過度のストレスや不安を感じる可能性がある。
・パフォーマンスの低下:適性や意欲が不足している場合、期待されるパフォーマンスを発揮できない可能性がある。
・組織全体への悪影響:不適切な人材配置は、チームの生産性や職場の雰囲気にも悪影響を及ぼす可能性がある。

4.真の女性活躍とは:多様なキャリアパスの提供

個々の適性と希望の尊重

真の女性活躍とは、単に管理職の数を増やすことではありません。それは、個々の女性社員の適性や希望に応じた多様なキャリアパスを提供し、それぞれが最大限の力を発揮できる環境を整えることです。

例えば、以下のようなキャリアパスが考えられます。

・管理職コース:リーダーシップを発揮し、組織をマネジメントすることに適性と意欲がある社員向け。
・専門職コース:特定の分野で高度な専門性を身につけ、エキスパートとして活躍したい社員向け。
・プロジェクトリーダーコース:管理職にはならずとも、プロジェクトごとにリーダーシップを発揮したい社員向け。
・ワークライフバランス重視コース:家庭との両立を図りながら、自身のペースでキャリアを築きたい社員向け。

成功事例:多様なキャリアパスの導入

実際に、多様なキャリアパスを導入して成功している企業があります。

例えば、株式会社リクルートホールディングスでは、「Will-Can-Mustカード」というツールを用いて、社員の意志(Will)、能力(Can)、会社からの期待(Must)を可視化し、個々人に合わせたキャリア開発を行っています(出典:リクルートホールディングス CSRレポート 2020)。

また、サイボウズ株式会社では、「100人いれば100通りの働き方がある」という考えのもと、社員が自由に労働条件を選択できる「選択型人事制度」を導入しています。この制度により、社員の離職率が大幅に低下し、多様な人材の活躍につながっているとのことです(出典:サイボウズ株式会社 公式ウェブサイト)。

5.中小企業における女性活躍推進の実践

①現状把握と目標設定
まずは自社の現状を正確に把握することから始めましょう。以下の点について確認してください:

・女性社員の比率(全体、管理職)
・女性社員の平均勤続年数
・女性社員の離職率
・女性社員の昇進率

これらのデータを基に、自社の課題を特定し、適切な目標を設定します。ただし、単純に女性管理職の比率を上げることだけが目標ではないことに注意してください。


②多様なキャリアパスの設計
前述のように、管理職以外のキャリアパスも含めた多様な選択肢を用意することが重要です。中小企業の場合、以下のような方法が考えられます。

1.職能等級制度の導入:管理職と専門職を並列的に評価する制度を設けることで、管理職以外のキャリアパスの価値を明確化する。
2.プロジェクト制の活用:一時的なプロジェクトリーダーの機会を提供することで、リーダーシップスキルの開発機会を増やす。
3.社内公募制:新規プロジェクトや部署異動の機会を社内公募にすることで、個々の意欲と適性に応じたキャリア形成を支援する。


③柔軟な働き方の導入
女性活躍推進には、柔軟な働き方の導入も重要です。以下のような施策が効果的です。

1.フレックスタイム制:育児や介護との両立を支援する。
2.在宅勤務・テレワーク:通勤時間の削減や柔軟な時間活用を可能にする。
3.短時間勤務制度:子育て期の社員のキャリア継続を支援する。
4.副業・兼業の許可:多様な経験を通じたスキルアップを支援する。


④評価制度の見直し
長時間労働や転勤の有無などを評価基準にしていないか、無意識のバイアスが評価に影響していないかを確認し、必要に応じて評価制度を見直しましょう。成果主義の導入や、多面評価の実施なども検討に値します。

6.まとめ:真の女性活躍推進に向けて

女性活躍推進法は、日本社会が抱える課題に対応するために制定された重要な法律です。しかし、その本質は単に女性管理職の数を増やすことではありません。真の目的は、個々の女性が自身の適性や希望に応じて能力を最大限に発揮できる環境を整えることにあります。
中小企業の経営者・人事担当者の皆様には、以下の点を心に留めて女性活躍推進に取り組んでいただきたいと思います。

1.多様性の尊重:全ての女性が同じキャリアを望むわけではないことを理解し、多様なキャリアパスを提供する。
2.個々の適性と希望の重視:画一的な施策ではなく、個々の社員の適性と希望に応じたキャリア開発を支援する。
3.柔軟な働き方の導入:ワークライフバランスを重視し、多様な働き方を可能にする制度を整備する。
4.公平な評価制度の構築:無意識のバイアスを排除し、成果に基づく公平な評価を行う。
5.長期的視点の重要性:短期的な数値目標の達成だけでなく、長期的な視点で女性の活躍を支援する環境づくりに取り組む。

女性活躍推進は、単なる法令順守の問題ではありません。多様な人材が活躍できる環境を整えることは、企業の競争力強化や持続的な成長につながります。「押し付けではない、自由な選択こそが鍵」という視点を持ち、真の意味での女性活躍推進に取り組んでいくことが、これからの時代に求められているのです。

読んでいただき、ありがとうございました。


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