実践編:「心理的安全性」で中小企業の潜在力を120%引き出す方法(後編)

目次

前回の記事では、心理的安全性の重要性とそのメリットについて解説しました。
今回は、その続編として、実際に中小企業で心理的安全性を構築するための具体的な方法に焦点を当てます。

心理的安全性の構築は一朝一夕にはいきませんが、正しい方法で取り組めば、確実に成果を上げることができます。それではさっそく、「明日から実践できる7つのステップ」について解説しましょう。

STEP1.トップのコミットメントと理解

心理的安全性の構築において、最も重要なのがトップのコミットメントです。
経営者自身が心理的安全性の重要性を理解し、その実現に向けて本気で取り組む姿勢を示すことが不可欠です。

まず、経営者自身が心理的安全性について学び、深く理解することから始めましょう。
次に、経営者自身が率先して行動することが重要です。例えば、自らの失敗談を共有したり、部下の意見に耳を傾けたりする姿勢を示すことで、組織全体に心理的安全性の重要性を伝えることができます。

STEP2.現状の評価と目標設定

心理的安全性の構築を始める前に、まず現状を正確に把握することが重要です。
エドモンドソン教授が開発した『心理的安全性評価尺度』を用いて、組織の現状を測定しましょう。
この評価尺度は、エドモンドソン教授の論文「Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams」(Administrative Science Quarterly, 1999)で詳しく説明されており、以下のような質問項目で構成されています。

①このチームでは、誰かが間違いを指摘しても、その人が拒絶されることはない
②チームメンバーは、問題や難しい課題を指摘することができる
③チームメンバーは、お互いの違いを受け入れている
④このチームでは、リスクを取ることは安全だ
⑤他のメンバーに助けを求めるのは難しくない
⑥誰も意図的に他のメンバーの努力を損なうようなことはしない
⑦このチームでは、独自のスキルや才能が評価され、活用されている

これらの項目について、従業員に7段階で評価してもらい、その評価結果を分析し、組織の強みと弱みを把握しましょう。
現状把握ができたら、次は具体的な目標を設定します。例えば、「6か月後に心理的安全性スコアを20%向上させる」といった具体的な数値目標を立てることで、取り組みの進捗を測定しやすくなります。

STEP3.オープンなコミュニケーション文化の醸成

心理的安全性の高い組織では、オープンなコミュニケーションが自然に行われています。
この文化を醸成するために、以下のような取り組みを実践しましょう。

①定期的な1on1ミーティングの実施

上司と部下が定期的に1対1で対話する機会を設けることで、信頼関係を構築し、率直な意見交換ができる環境を作ります。

②オープンドアポリシーの導入

オープンドアポリシーとは、従業員が上司や経営層に気軽に相談や意見を言えるような環境を作ることを目的とした方針です。言葉どおり、経営者や役職者がオフィスのドアを開けておくようなイメージです。
経営者や管理職が、従業員からの相談や提案をいつでも受け入れる姿勢を示すことで、コミュニケーションの障壁を下げます。

③全体ミーティングでの質疑応答セッション

定期的な全体ミーティングで、経営者や管理職が従業員からの質問に答える時間を設けることで、組織の透明性を高めます。

STEP4.失敗を学びの機会として捉える文化の構築

心理的安全性の高い組織では、失敗を恐れずにチャレンジする文化が根付いています。
失敗を非難するのではなく、学びの機会として捉える文化を構築するために、以下のような取り組みを実践しましょう。

①「失敗学習セッション」の開催

定期的に失敗事例を共有し、そこから得られた教訓を議論する場を設けます。

②「ベストミステイク賞」の導入

組織にとって価値ある学びをもたらした失敗を表彰することで、失敗を恐れずにチャレンジする文化を促進します。

③経営者自身の失敗談の共有

経営者が自身の失敗経験とそこから学んだことを積極的に共有することで、失敗を隠さない文化を醸成します。

STEP5.多様性と包括性の推進

心理的安全性の高い組織では、多様な背景や意見を持つ従業員が互いを尊重し合い、それぞれの強みを活かすことができます。多様性と包括性を推進するために、以下のような取り組みを実践しましょう。

①ダイバーシティ&インクルージョン研修の実施

従業員に対して、多様性の重要性や無意識のバイアスについて学ぶ機会を提供します。

②多様な人材の採用と登用

性別、年齢、国籍、経歴などに関わらず、多様な人材を積極的に採用し、重要なポジションに登用します。

③社員コミュニティの設立

女性社員の会や若手社員の会など、特定のグループの従業員が交流し、互いにサポートし合える場を設けます。

STEP6.フィードバックの仕組み作り

心理的安全性の高い組織では、建設的なフィードバックが日常的に行われています。
効果的なフィードバックの仕組みを作るために、以下のような取り組みを実践しましょう。

①360度フィードバックの導入

上司、同僚、部下など、多角的な視点からのフィードバックを受ける機会を設けます。

②フィードバックの技術トレーニング

建設的なフィードバックの与え方、受け取り方について、全従業員にトレーニングを提供します。

③「感謝のメッセージ」の奨励

従業員同士が互いの貢献を認め合い、感謝の気持ちを表現する文化を醸成します。

STEP7.継続的な改善と評価

心理的安全性の構築は、一度で完了するものではありません。継続的な改善と評価が不可欠です。以下のような取り組みを通じて、常に組織の状態を把握し、改善を続けましょう。

①定期的な心理的安全性評価
半年に1回程度、心理的安全性評価尺度を用いて組織の状態を測定します。

②従業員満足度調査の実施
定期的に従業員満足度調査を行い、心理的安全性との相関関係を分析します。

③改善アクションプランの策定と実行
評価結果に基づいて具体的な改善策を立案し、実行します。

④成功事例の共有
心理的安全性の向上によって生まれた成功事例を、社内で積極的に共有します。

まとめ

以上、心理的安全性を構築するための7つのステップを解説しました。これらのステップを着実に実践することで、あなたの会社も心理的安全性の高い組織へと変革することができます。

心理的安全性の構築には時間がかかりますが、その効果は絶大です。従業員の潜在能力を最大限に引き出し、イノベーションを促進し、人材の定着率を高めることで、企業の競争力を大きく向上させることができます。
中小企業庁の2023年版中小企業白書によると、人材の確保・定着が課題だと答えた中小企業は全体の66.5%に上ります。心理的安全性の構築は、この課題を解決する有効な手段となるでしょう。

最後に、心理的安全性の構築は、単なる経営手法ではありません。それは、人間性を尊重し、一人一人の従業員が自分らしく働ける環境を作ることです。そのような組織こそが、長期的に成功を収めることができるのです。

読んでいただき、ありがとうございました。


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