「最近、あの社員、元気がないな…」部下のメンタル不調のサインに気づいた時、上司が絶対やってはいけないNG対応とかけるべき”最初の一言”

目次

はじめに:メンタル不調への対応は、組織の生産性と社員の人生を左右する

「最近、〇〇さんの様子がおかしい。同僚に対する態度がそっけないし、ミスも増えている・・・」

このような部下の変化に気づいた時、あなたならどう対応しますか?

厚生労働省の調査によると、仕事に強いストレスを感じる労働者の割合は8割を超え(「労働安全衛生調査(実態調査)」より)、精神障害による労災認定件数はこの10年余りで倍増(「過労死等の労災補償状況」より)するなど、職場でメンタルヘルス不調を抱える労働者は深刻な増加傾向にあります。特に中小企業では専門的な産業医やカウンセラーが常駐していないケースが多く、上司や人事担当者の初期対応が極めて重要になります。

しかし同時に、「プライベートにどこまで踏み込んでいいのか」「ハラスメントと言われないか」という不安から、見て見ぬふりをしてしまうケースも少なくありません。

本記事では、部下のメンタル不調のサインに気づいた時の適切な対応方法と、絶対に避けるべきNG行動について、具体的かつ実践的にお伝えします。

第1章:メンタル不調の早期サインを見逃さない観察ポイント

メンタル不調は、まず行動面に現れることが多いです。
以下のような変化が2週間以上続いている場合は、注意が必要です。

1.行動面の変化をチェックする

①仕事のパフォーマンスに関する変化
・今まで守れていた納期を頻繁に遅れるようになった
・単純なミスが増え、注意力が散漫になっている
・会議での発言が極端に減った、または逆に攻撃的になった
・決断力が低下し、些細なことでも判断を求めてくるようになった

②勤怠に関する変化
・遅刻や早退が増えた
・月曜日や連休明けに欠勤することが多くなった
・有給休暇の取得パターンが変わった(急な取得が増えた)
・残業時間が極端に増えた、または減った

2.対人関係の変化に着目する

・同僚とのランチや雑談を避けるようになった
・メールやチャットの返信が遅くなった、または文面が短くなった
・以前は積極的だった社内イベントへの参加を断るようになった
・電話に出なくなり、メールでのやり取りを好むようになった

3.身体的な変化も重要なサイン

・顔色が悪く、疲れた表情が続いている
・服装や身だしなみに気を使わなくなった
・体重の急激な増減がみられる
・「頭が痛い」「胃が痛い」など、身体的な不調を頻繁に訴える

第2章:絶対にやってはいけない5つのNG対応

NG対応1:「気のせいだよ」「考えすぎだよ」と軽視する

部下が悩みを打ち明けた時、善意から「そんなに深刻に考えなくていいよ」と言いたくなる気持ちは理解できます。しかし、この言葉は相手にとって「自分の感じていることを否定された」というメッセージになりかねません。

【なぜNGなのか】
・本人にとっては深刻な問題であり、軽視されたと感じる
・「この人に相談しても意味がない」と心を閉ざす原因になる
・問題の早期解決の機会を逃してしまう

NG対応2:「私の若い頃は…」と自分の経験談を語る

「私も昔は同じような経験をして・・・」という話は、一見共感を示しているようですが、実は逆効果になることが多いです。

【なぜNGなのか】
・時代背景や個人の状況が異なるため、比較にならない
・「結局、自分の話がしたいだけ」と受け取られる
・部下の話を聞く時間が減り、問題の本質を見失う

NG対応3:「頑張れ」「もっと強くなれ」と精神論で励ます

日本の職場文化では「頑張る」ことが美徳とされがちですが、既に限界まで頑張っている人にとって、この言葉は追い打ちをかけることになります。

【なぜNGなのか】
・既に頑張っている人にさらなるプレッシャーを与える
・「頑張れない自分はダメだ」という自己否定を強める
・具体的な解決策にならず、問題を先送りにする

NG対応4:「プライベートなことだから」と完全に距離を置く

パワハラを恐れるあまり、明らかに困っている部下を放置することも問題です。

【なぜNGなのか】
・安全配慮義務の観点から、企業には社員の健康管理責任がある
・早期対応の機会を逃し、状況が悪化する可能性がある
・「見捨てられた」と感じ、組織への信頼を失う

NG対応5:勝手に診断し、レッテルを貼る

「あの人はうつ病だ」「発達障害なんじゃないか」など、専門知識なしに判断することは絶対に避けるべきです。

【なぜNGなのか】
・医学的診断は医師にしかできない
・レッテルを貼ることで、本人の可能性を狭める
・職場での偏見や差別につながる可能性がある

第3章:部下にかけるべき"最初の一言"と適切な対応フロー

1.効果的な"最初の一言"の具体例

部下の変化に気づいた時、最初にかける言葉は非常に重要です。
以下に、状況別の効果的な声かけの例を紹介します。

  基本の声かけパターン

「最近、少し疲れているように見えるけど、体調は大丈夫?何か仕事で困っていることがあれば、相談に乗るよ」

この声かけのポイントは:
・観察した事実を伝える(疲れているように見える)
・心配していることを示す(体調は大丈夫?)
・サポートの意思を伝える(相談に乗る)
・強制しない(〜があれば)


●その他の声かけの例
・パフォーマンス低下が見られる場合
「○○さん、最近の仕事の進み具合はどう?もし業務量が多すぎるとか、何か障害になっていることがあれば、一緒に解決策を考えたいんだけど」

・欠勤が増えている場合
「体調が優れない日が続いているようだけど、無理はしていない?仕事の調整が必要なら遠慮なく言ってね」

2.面談の進め方:4つのステップ

ステップ1:安心・安全な環境を作る
・個室など、プライバシーが守られる場所を選ぶ
・十分な時間を確保する(最低30分以上)
・「この話は必要がなければ他言しない」と伝える
・リラックスした雰囲気を心がける

ステップ2:傾聴に徹する
・相手の話を遮らない
・「それは大変だったね」「よく頑張ってきたね」と共感を示す
・沈黙を恐れず、相手のペースを大切にする
・メモを取る場合は、相手の了承を得る

ステップ3:具体的なサポートを提案する
・業務量の調整や締切の延長
・業務分担の見直し
・在宅勤務やフレックスタイムの活用
・産業医やカウンセラーへの相談の提案

ステップ4:フォローアップの約束をする
・「また来週、様子を聞かせてもらってもいい?」
・定期的な1on1ミーティングの設定
・緊急時の連絡方法を確認する

3.専門機関につなぐタイミングと方法

以下のような状況では、速やかに専門機関への相談を勧めるべきです。

・「死にたい」「消えたい」などの発言がある
・2週間以上、不眠や食欲不振が続いている
・アルコールや薬物への依存が疑われる
・仕事に支障をきたすレベルの集中力低下

  専門機関への橋渡しの伝え方例

「○○さんの今の状況は、専門家のサポートを受けた方が早く改善する可能性が高いと思う。会社の産業医に一度相談してみない?私も同席することもできるし、どう思う?」

第4章:組織として整備すべきメンタルヘルス対策

1.中小企業でも実施可能な制度設計

①相談窓口の設置
・社内に専任者を置けない場合は、外部EAP(従業員支援プログラム)の活用
・地域の産業保健総合支援センターの無料相談の活用
・オンラインカウンセリングサービスの導入
・復職支援プログラムの策定

②段階的な職場復帰(リハビリ出勤制度)
・復職後の定期面談の実施
・業務内容や勤務時間の段階的な調整

2.管理職研修の重要性

年に1回以上、以下の内容を含む研修を実施することをお勧めします。

・メンタルヘルスの基礎知識
・傾聴スキルの習得
・ハラスメント防止
・事例検討とロールプレイング

3.予防的な職場環境づくり

①心理的安全性の確保
・失敗を責めない文化の醸成
・多様な働き方の受け入れ
・定期的な1on1ミーティングの実施
・ワークライフバランスの推進

②有給休暇取得の促進
・長時間労働の是正
・テレワークやフレックスタイムの導入

第5章:法的リスクを回避しながら適切に対応するために

1.安全配慮義務との向き合い方

企業には労働契約法第5条により、従業員の生命、身体等の安全を確保する義務があります。メンタルヘルス対策を怠ることは、この義務違反となる可能性があります。

【押さえておくべきポイント】
・明らかな不調のサインを放置しない
・対応の記録を必ず残す
・本人の同意を得ながら進める
・プライバシーに配慮した情報管理

2.パワハラと言われないための配慮

適切な指導とパワハラの境界線を理解することが重要です。

【適切な対応の特徴】
・業務上必要な範囲での指導
・人格ではなく行動に焦点を当てる
・改善のための具体的な提案を含む
・相手の尊厳を守る

おわりに:小さな一歩が、大きな違いを生む

部下のメンタル不調への対応は、決して簡単ではありません。「プライベートに踏み込みすぎないか」「ハラスメントと言われないか」という不安を感じるのは当然のことです。

しかし、あなたの「最近、大丈夫?」という一言が、苦しんでいる部下にとって大きな救いになることも事実です。完璧な対応を目指す必要はありません。大切なのは、部下を一人の人間として尊重し、真摯に向き合う姿勢です。

メンタルヘルス対策は、単なる福利厚生ではなく、組織の持続的な成長に不可欠な経営課題です。一人ひとりの社員が心身ともに健康で、その能力を最大限に発揮できる職場環境を作ることは、中小企業にとっても大きな競争力となります。

まずは、明日から部下の様子をいつもより少し注意深く観察することから始めてみませんか。そして、気になることがあれば、勇気を出して声をかけてみてください。その小さな一歩が、部下の人生と組織の未来を大きく変える可能性を秘めています。

人事担当者として、管理職として、そして一人の人間として、部下のメンタルヘルスと向き合うことは、決して特別なことではありません。それは、人を大切にする組織文化を築く第一歩なのです。

読んでいただき、ありがとうございました。


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